会議10分前
席に着き、資料をもう一度開きながら、なんとなく嫌な予感がしている。
品川さん、今日も来るよな。
このチームで一番、話が整理されている人だ。
たぶん、今日も正論をきれいに並べてくる。
理屈は合っているし、資料もきれいで、数字もちゃんとしている。
渋谷さんもきっとうなずくだろう。
「そのとおりですね~」という一言が、頭に浮かぶ。
でも、正直こう思ってしまう。
「確かに正しいけど、オレの考えの方がうまくいくと思うんだよな……」
自分の案は、数字は少し弱い。
説明も正直、完璧じゃない。
でも、手応えはある。
今は多少のリスクを取ってでも特急で進みたい。
そういう気持ちは、はっきりしている。
会議が始まる
まずは自分の説明。話している途中で、品川さんが口を開く。
「考え方としては理解できるよ。
ただ、この数字を見る限り、成功確率はそこまで高くない。
もし想定通りにいかなかった場合、リカバリーが難しいよね」
……ですよね。そう言われると思っていた。
品川さんの話は、「失敗しないこと」を最優先に考えた安全運転派だ。
一つひとつはもっともで、誰もが納得しやすい。
次に、品川さんの案が説明される。
前提が整理されていて、想定も抜けていない。
渋谷さんが言う。
「確かに、そのとおりですね~」
誰も間違ったことは言っていない。
だから、誰も否定できない。
気づけば論点が増えている。
前提条件の話。
想定ケースの話。
「もし〜だったら」の話。
議論は深くなる。でも、決まらない。
会議が終わる
時計を見ると、終了予定の時間を過ぎている。
「今日は一旦ここまでにしましょうか」
誰かがそう言って、会議が終わる。
結局、何も決まらないまま。
席に戻りながら、ふと思う。
誰かが間違っていたわけではない。
品川さんは正しいことを言っていたし、渋谷さんも間違っていない。
自分の企画だって、的外れではなかった。
全員、それなりに正しかった。
それなのに、なぜ決まらなかったのか。
組織がうまくいかないとき、つい
「やり方が悪いのではないか」
「誰かが間違っているのではないか」
と考えてしまいがちだ。
でも、実際に起きていることは、もっと単純な場合がある。
人数が少ない組織では、
- 日々の業務を回しながら
- 同時に方向性の話もしなければならず
- しかも、その話を全員でしようとする
という状況になりやすい。
このとき会議の中で起きているのは、
価値観が揃っていない状態で、価値観レベルの話を全員でしている
という状態だ。
ここでいう価値観とは、
何を優先するか、どこまでリスクを取るか、何を守り、何を捨てるか
といった判断の軸のこと。
価値観は、話し合えば簡単に揃うものではない。
育ってきた環境も、経験も、立場も違う。
だから、
正しいことを言っているのに決まらず、
話せば話すほどズレが見えてきて、
最後は「今日は決めない」という選択になる。
もし今、さきほどの会議に心当たりがあるとしたら、
それは誰かの能力や姿勢の問題ではない。
組織が、まだ役割を分けきれない段階にいる。
ただ、それだけのことだ。
本来、組織の中には
どこに向かうかを決める話と
決まった前提で迷わず進める話
性質の違う二つの話がある。
人数が少ない組織では、
その両方を同じメンバーで抱え込んでしまう。
だからこそ、
全員で価値観を揃えようとし、
全員で納得しようとし、
全員で決めようとしてしまう。
これは、いちばん負荷の高いやり方だ。
ここで大切なのは、
「今はそういう段階にいるのだ」と気づくこと。
どうすればいいか、という答えは、
実はもう見えているはずだ。
でもそれは、
誰かに正解を教えられて納得するものではなく、
自分たちで構造に気づいたときにしか、腹落ちしない。
今、うまくいっていないのだとしたら、
それは失敗でも、間違いでもない。
ただ、その組織が今いる段階の話だ。
気づけたなら、次の一手はきっと変わる。
さあ!会議を終わらせよう!



















