シリーズ: WORKとLIFEをもっと身近に。
公園から生まれた仕事
春の朝。
パン屋「YAZAKI BAKERY」の前の公園では、
学童クラブ「ひだまり」の子どもたちが花壇の水やりをしていた。
「このチューリップ、パン屋さんの袋の絵に似てる!」
「ほんとだ、パンの形みたい!」
それを見ていた店主・矢崎はるが笑う。
「うちの袋、子どもたちが描いてくれたらもっと可愛いかもね。」
何気なく言ったその一言が、
町に小さな風を起こすことになる。
数日後、学童の先生がパン屋を訪ねてきた。
「はるさん、あの話……本気でいいですか?
子どもたち、パン袋の絵を描きたいって。」
はるは少し驚きながらも、迷いなく頷いた。
「もちろん! じゃあ“お仕事”にしようか。」
子どもたちは、放課後に“パン袋デザイン係”として集まった。
クレヨンで思い思いのパンや花、太陽を描く。
その色はバラバラで、線も歪んでいる。
けれど、不思議と温かい。
半田印刷所がその絵をデータ化し、
新しい「YAZAKI BAKERY」オリジナル袋が完成した。
新しいパン袋が店頭に並ぶと、
SNSで「#ひだまりパン」のタグが話題になった。
「子どもたちの絵が可愛い」
「この袋、捨てられない」
「買うと笑顔になる」
そんな声が少しずつ広がっていった。
やがて、町のカフェや花屋から声がかかる。
「うちも“子どもデザイン袋”をお願いしたい」
半田印刷所が中心となり、
子どもたちの絵を活かす“まちのデザイン工房”が立ち上がる。
その名も「ひだまりラボ」。
町のあちこちに、子どもたちの絵が印刷された袋が並び始めた。
それは、町が子どもたちを“働き手”として迎え入れた最初の瞬間だった。
オーブンの前でパンを焼きながら、はるはふと思い出していた。
前職のホテルで、「子どもと作る季節限定メニュー」という企画を出したときのこと。
厨房の上司にやんわりと止められた。
「悪い企画じゃない。けど……やめておいたほうがいい。」
理由を聞くと、上司もかつて同じような取り組みを行い、
SNSで“搾取だ”“子どもを利用している”と批判され、炎上したことがあったという。
親も子どもも喜んでいたのに、
社会の目は冷たかった。
その記憶が、はるの胸に静かに残っていた。
やがて、「ひだまりパン」の活動が広がると、
SNSでもいくつかの批判の声が上がった。
けれど、今回は町の人たちがすぐに反応した。
「この町ではね、みんなで子どもを育ててるんだよ。」
「この子たちの笑顔が見られるなら、それでいいじゃない。」
コメント欄には、そんな温かいやりとりが並び始めた。
はるは、そのコメントを見つめながら思った。
“豊かさ”も“批判の声”も、どちらも正解だと思う。
かつての自分の企画も、上司が話してくれた批判も、
どちらも間違ってはいなかった。
ただ――この町は、
子どもが社会の中に自然と参加できる町だった。
「手伝い」や「体験」ではなく、
“ひとりの働き手”として受け入れる空気がある。
そして、はるはその空気に惹かれて、
この町にパン屋をつくったのだ。














