シリーズ: WORKとLIFEをもっと身近に。
学童クラブ「ひだまり」と “こどもワークデイ” の朝
パン屋「矢崎BAKERY」の隣にある、学童クラブ「ひだまり」。
放課後に宿題をしたり、おやつを食べたり、時々けんかをしたり──
そんな、ごく普通の場所。
けれど今、このクラブには“もうひとつの顔”がある。
それが「こどもワークデイ」。
子どもたちが町の人たちと一緒に“できる仕事”を手伝い、
その報酬で「自分たちの遊具やお菓子を買う」。
小さな経済が、町の中で静かに回り始めていた。
きっかけは、パン屋「矢崎BAKERY」の店主・矢崎はる(36)。
ある日、学童にパンを届けに来て、こう言った。
「子どもたちが焼いたパンを、うちの店で少しだけ売ってみませんか?」
最初は冗談のように聞こえた。
けれど、指導員の**井上あかね(29)**は本気で考えた。
「“お手伝い”じゃなく、“まちの一員として働く”時間を作れたらいいかもしれない。」
翌週の月曜日。
学童の子どもたちはエプロンをつけて矢崎BAKERYへ向かった。
こねる、丸める、焼く。
パンの香りが町に広がるころ、
ショーケースの一角に「ひだまりキッズパン」が並んだ。
手のひらサイズの丸パン。1個100円。
売り上げの半分は学童の運営費、もう半分は「子どもたちのまち基金」へ。
“自分の手で町の誰かを喜ばせる”という初めての体験。
その夜、子どもたちは口々に言った。
「ぼくたちのパン、買ってくれた人がいた!」
「働くって、すごいことなんだね!」
最初の売り上げは、3,600円。
子どもたちは集まって話し合いを始めた。
「このお金、何に使う?」
「お菓子買いたい!」
「でも、町のゴミ拾い道具もほしい!」
意見が割れた結果、
子どもたちは自分たちで「ひだまり基金会議」を開いた。
決まったのはこうだ。
「お菓子は“みんなで食べる分だけ”。
残りは、ゴミ拾いのトングと軍手を買う。」
翌週の金曜日。
放課後の通りに、オレンジ色のビブスを着た子どもたちの姿があった。
手には軍手とトング。
「ひだまり清掃隊、出発!」
拾い終えたゴミ袋の上には、
子どもたちが貼った学童のロゴシール。
それを見た通行人が足を止める。
「ありがとうね、助かるよ。」
その一言が、何よりの報酬だった。
「ひだまり清掃隊」の活動はすぐに評判になった。
次第に、半田印刷所の社長・**半田正樹(42)**が声をかけてくる。
「子どもたちの活動を紹介するポスターを作らせてくれませんか?」
子どもたちは自分たちで描いた絵や写真を半田に渡した。
「このトングの写真、カッコよくして!」
「パンの湯気、見えるようにしたい!」
完成したポスターは商店街の掲示板に貼られた。
タイトルは、
「ひだまりワークデイ ― こどもが作る町の朝」。
それを見た人々が、パン屋で声をかけるようになった。
「このパン、あの子たちが焼いたんでしょ?」
「うちの子も次、参加させたい!」
小さな活動が、町の空気をやわらかく変えていった。
冬のある日。
雪がちらつく夕方、井上はパン屋の帰り道で足を止めた。
店の前には、子どもたちが描いたポスターと、
「こどもパン販売中」の札。
中を覗くと、矢崎が笑って言った。
「今日の子たち、予約分ぜんぶ売り切れですよ。」
レジの横には、小さな木箱。
“ひだまり基金”の文字。
その横には、子どもたちの手書きのメッセージ。
「パンを買ってくれてありがとう。
このお金で、町をきれいにします。」
井上は静かに頷いた。
この町には、すでに“働く”が息づいている。
大人が教えるのではなく、
子どもたちが生きることで、町を支えているのだ。
WORKとLIFEをもっと身近に。
それは、大人が教えることではなく、
子どもが町に教えてくれることかもしれない。














